船のスペシャリストに聞きました

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レストランシップ ヴァンテアン▶海の上で東京湾の大パノラマを眺めながら、フレンチコース料理を楽しむことができる大型レストラン船「VINGT ET UN(ヴァンテアン)」。フランス語で"21"を意味する。就航開始年が21世紀を目前とした1989年であったことからつけられた。総トン数1,717t。

人の命を預かるからこそ「和」を重んじ、全力で安全運航に臨む

10日間連続で働き、5日間休む

―船長の小川さん、二等航海士の田中さん、三等航海士の後藤さんにお話を聞きます。まず、ヴァンテアンについて聞かせてください。

小川ヴァンテアンは海の上で東京湾の大パノラマを眺めながら、フレンチコース料理を楽しむことができる大型レストラン船です。フランス語で「21」を意味しますが、就航開始年が21世紀を目前とした1989年であったことから命名されました。今年で29年になります。竹芝桟橋から出航する「東京湾クルーズ」は、レインボーブリッジ、お台場、大井埠頭、羽田空港沖といった東京湾の見所スポットを巡り、約2時間優雅にクルージングします。

―船長(キャプテン)、航海士の仕事内容を教えてください。

小川我々3名は、10日間連続で働き、5日間休むという仕事のサイクルで働き、勤務期間中はずっとこの船の上におります。まず朝は8:30 に船内を見廻り、整備や点検にモレがないかチェックします。このヴァンテアンは、12:00 ~ 14:00 が「ランチクルーズ」、16:20 ~ 18:20 が「トワイライトクルーズ」、そして19:20 ~21:20 が「ディナークルーズ」と一日3回運航します。その間3人で交代をしながら、安全に最大限注意をはらいながら航行しています。

田中私と後藤は、キャプテンが見廻るさらに前の7:30 から整備・点検を行います。そして運航にあたりましては、毎日ブリッジ(操舵室)に立ち、キャプテンの指示のもと、的確に船を動かします。一日3回ある運航のうち、1回はキャプテンの指示で休むことができますので、緊張とリラックスを上手にコントロールしています。

後藤私はまだ2年目の新人ですので、毎日が勉強の連続です。学校で教えてもらった知識は、今思えばほんの入口の知識で、実際現場に出てみますと解らないことばかりで、本当に勉強になります。

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子どもの頃からの夢、キャプテン

―どのようなきっかけで船の仕事についたのですか。

小川小学校の頃に連れて行ってもらった伊豆大島への家族旅行の時に島の夜景に魅了され、客船を操るキャプテンに憧れを抱いたのがきっかけです。高校までは普通科に通いましたが、今の国立波方海上技術短期大学校に進学し、海技士国家資格(四級海技士)の資格を取得、その後独学で三級も取得し、晴れて船乗りとなりました。その後は東南アジアの材木船や自動車運搬船で下積みを積んで、東海汽船という会社に就職しました。

田中高校卒業後、海外に出ていたのですが、一度帰国した時に将来のことを考えて、たまたま船の業界を知りました。親に国立清水海上技術短期大学校のことを教わり、国立で学費も蓄えで賄えそうなのでこの道を決めました。もともとバイクやクルマのエンジンを触るのが好きでしたので、エンジニア志望でした。大型貨物船のエンジンは、一戸建ての家一軒分ぐらい大きいので、テンションが上がったのを覚えています。学校では航海士/ 機関士の両方の免許を取得しました。ヴァンテアンは5年目になりますが、その前は一般商船に5年ほど乗っていました。今では航海士としての仕事が面白くなっています。

後藤私は高校まで普通科で勉強してきまして、進路に悩んでいました。将来何になるかまったく思い描けず、学校選定の時にたまたま目に止まって面白そうだと感じたのが東京海洋大学でした。ここは母方の祖父がかつて憧れたけど行けなかった大学(当時は東京商船大学。東京水産大学と合併して東京海洋大学に)だったらしく、私の選択をとても喜んでくれました。祖父がなりたかった船乗りという仕事につこうと、その時決めました。経済的にも国立で負担も軽かったですし、オープンキャンパスに行った時も楽しそうな雰囲気を感じました。ですが実際船乗りになってみますと、本当に学ぶことがたくさんあって充実の日々です。

―休みの時はどのように過ごしているのですか。

小川我々船乗りからすると、船から降りることを「丘に上がる」と言います。またいわゆる普通の会社勤めのことを「丘勤め」などと言います。最近は丘に上がると、もっぱらゴルフです(笑)。

田中私には3歳になる娘がいるのですが、休みの日は娘と遊んでいるのが楽しいですね。船での休憩の際にも、次に連れて行く場所を検索しています。

後藤私はバンド活動をしていまして、ドラムを担当しています。仕事のシフト上、メンバーとの日程調整はなかなか難しいですが、反面、遊びや食事に行く際は混雑が避けられることができますし、行列に並ばなくていいというメリットもあります。

朝の挨拶、和の根源

―船乗りとして大切にしていることは何ですか。

小川一番大切にしているのは船内の「和」です。「朝の挨拶、和の根源」ということわざがありますが、挨拶に始まり、和を重んじて、そうすることによって安全運航ができるのです。そして技術の継承です。「和」がないといくら教えても絶対に覚えませんし、教える側も真剣になれません。喧嘩が多いまたは、イジメがあるような船は栄えません。船乗りとしての31年のキャリアを活かして、若い彼らにそうしたことを伝えていきたいと思います。

―田中さんの夢を教えてください。

田中小川キャプテンを見習い、経験と知識を積んで、いずれは船長になりたいと思っています。そして定年を迎えたら、大好きな料理の腕を振るって小料理屋などもやってみたいです。

―後藤さんはいかがですか。

後藤お客様の多くの命をお預かりしていますので、船乗りとしては大きな責任が伴います。そうした責任を果たせるような人間になるのが当面の目標です。

―最後にメッセージをお願いします。

小川この船は「和」を重んじる、本当に理想の船だと思います。後藤も申しましたように、人の命を預かった上での安全運航が絶対的な命題です。その気持ちを全員が持ち、意識を高く持っているからこそ、「和」が成り立っているのだと思います。

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船舶の仕事をめざす高校生へのメッセージ

他では味わえない、ライブ感満載な人生!
海に出ますと、「まったく同じ日」というのはありません。ひとたび出航すれば晴れの日もあれば強風の日もあり、嵐の日もあります。逆に穏やかな日は、本当に気持ちいいです。目まぐるしく変化する環境の中で、厳しさ、充実感、達成感が味わえる素敵な仕事です。

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