かとう せきいち▶東京都立川市出身。大学卒業後、一般企業勤務から会社経営を経て、家業の幼稚園園長に就任。豊富な社会経験と、子を持つ親の目線で、真に子どもの育ちを考えた幼児教育を実践。世界中から注目されるふじようちえんを牽引する。同地域で保育所、託児所の経営も行う。
人生とは、「ありがとうを集める旅」。
その意味で幼児教育はとても魅力的!
すべては、子どもが育つための道具
―日本全国はもとより、世界各国から見学者が訪れ、今最も注目されている「ふじようちえん」ですが、運営される施設について教えてください。
学校法人みんなのひろばでが運営するのは、幼稚園の他に「保育室スマイルエッグス」(東京都認証保育所)、「スマイルキッズクラブ」(会員制託児所)、「Fuji赤とんぼ保育園」(企業主導型保育所)、「なすび保育園」(認可保育所)です。
各園、行政管轄は異なりますが、私はそれらを総称して「子どもの育つところ」と言っています(笑)。心の真ん中にある思いは"子どもが育つ"ことです。ですから、園舎や人、土、動物、木々、芝生、砂場、井戸、そして園長である私も、教職員のみんなもすべて子どもが育つための道具だと考えています。子どもたちは、その道具である園舎、人、自然環境、状況に関わり、『自ら育つ力』を発揮して成長し、自立していくのです。
50年前から『モンテッソーリ教育』が基本
―ふじようちえんは、楕円の園舎をはじめ、独特な教育方法を導入され、各方面から注目を集めています。特徴を教えてください。
私たちは、幼児期を"人間にとって、また幸福な人生を歩む上での基礎であり、最初の驚きや発見を体験し、 感動を味わえるかけがえのない時間"と考えています。そして、キチンと角を揃えて折り紙を折ったり、ぬり絵をはみ出さないでぬるなどの遊び等々を通じて、物事をキチンとするクセ付けができています。そういう力を培って育った大人がつくっているのが、キレイで秩序が整った日本社会です。いわば、幼児教育こそは「国をつくる力がある」と信じています。
当園は、約50年前の創立期より「モンテッソーリ教育」を基本に保育を行っています。これは子どもが本来もっている"自ら育つ力"を引き出し、洗練させる科学的なプログラムでして、「日常生活の練習」「感覚教育」「言語教育」「算数教育」「文化教育」を5つの教育領域に分けて実践します。教師や親である我々大人たちは、子どもが自身を成長発展させるという要求を汲み取り、自由を保障し、子どもたちの自発的な活動を援助する存在に徹します。
子どもたちは、自然環境の中で本物に触れ、五感を使って発見し多くのことを感じるのです。特に指先で触れて、体験しながら理解する学び方こそが、後の学びの深さにつながっていきます。
コツコツと打順をつなぎ
示せ、ヤル気と爆発的なチームワーク!
―そのような教育方針のふじようちえんですが、スタッフのカラーには特徴がおありとか。
入園当初のメンバーは、野球で言いますと4番打者ではなく、7、8、9番打者のような下位打線タイプが多いです。スポットを浴びるホームランは打たなくても、皆で力を合わせてコツコツと打順をつなぎ、ある時とんでもないチームワークを発揮する。協調性に富み一緒になって物事を考え、何より「ふじようちえんで仕事をしたい!」というパワーにあふれているのが特徴です。
―世間では保育者の不足が叫ばれていますが、何か工夫をされていますか。
「幼児教育の楽しみ」の部分をもっと発信するといいと思います。当園では、皆が楽しみながら毎日の仕事に取り組めるよう、さまざまな工夫をしています。例えば「サタデースクール」と言いまして、土曜日に親御さんも一緒になって参加できるイベントを企画しています。これは先生方がグループを組んで企画し、細部にわたって計画・運営します。そして参加費から原価などを引いた粗利をそのグループに還元しています。参加者に喜ばれ、自分たちにも経済的なメリットがありますので、皆時間を忘れて取り組んでいます。
この他にも「隣の芝生制度」と言いまして、当園以外の職場が気になって退職した場合でも、1年以内なら復職できる制度や、ご主人の転勤でやむなく退職した先生が、また立川に戻ってこられた際に職場復帰できる「ブーメラン制度」などがあります。このように、何事もアイデア次第で楽しい方向に向かうことができます。
そしてもうひとつ、スタッフが普段働いている姿を写真に撮りまして、内部の人間だけが見られるサイトにアップしています。そのURLをスタッフの親御さんに自ら伝えるように勧めています。額に汗して働く姿、誰かに喜ばれている我が子(先生)の姿を親に見せられるということは、とても親孝行だと思うのです。そうした積み重ねが、モチベーションにつながっているのだと思います。
人生とは、「ありがとうを集める旅」
―先生方も、生徒さんたちを写真に収めているそうですね。
子どもの成長を実感した瞬間を撮影します。そしてその写真が、毎週5,000枚ほど私に送られてきます。今度は私がそれをセレクトし、コメントをつけて子どもたちの保護者宛に「子どもニュース」としてお配りしています。これは保護者の皆様からも好評ですし、何よりスタッフが保育に関して大変興味をもちますし、子どもたちの成長を注意深く観察するのに役立っています。いわばOJT(「On-The-Job Training」。実際の職務現場において、業務を通して行う教育訓練)です。
―幼児教育の現場で働こうとしている人に、メッセージをお願いします。
私は、働く上での人生最大の喜びは、人に喜んでもらって「ありがとう」と言っていただけた時だと思っています。その一言を言っていただくために勉強し、必要であれば資格や免許を取得するのではないでしょうか。人生とは、「ありがとうを集める旅」です。そういう意味では、幼児教育の仕事はとても魅力的な仕事と言えます。