あきもと かあい▶山口県出身。大学卒業後に株式会社 Join for Kaigoを設立。介護領域の若手を中心としたプレイヤーが集う「HEISEI KAIGOLEADERS」発起人。人の可能性が発揮される社会を、介護領域からつくりたい! と、日本全国にコミュニティを展開中。
2025年、介護のリーダーは日本のリーダーになる。
介護の未来を変える、若手リーダーコミュニティ
人生のおわりは必ずしも幸せではない
―若くして起業をされたとうかがいましたが、きっかけから教えてください。
大学2年の時、ふとしたきっかけで起業サークルとご縁ができ、そこに入会しました。その時は特に起業など意識はしていませんでしたが、サークル内ではいくつかのチームに分かれて自分達のビジョンやプランをイキイキと語っていたのに刺激を受けました。「せっかくなら自分が成長できそうなチームに入ろう」と入れてもらったチームが、たまたま介護関連のテーマに取り組み、「認知症による悲しみを減らす」をビジョンに掲げていて、そこから活動が始まりました。
認知症について調べてみると、人とのコミュニケーションが予防につながるということが分かり、そのツールとしてフリーペーパー「孫心(まごころ)」を発行することになりました。知識のない中、手探りで企画を立て、制作、営業など、すべて自分達の手で行いました。その甲斐あって、「孫心(まごころ)」は全国の学生フリーペーパーコンテストで準グランプリを受賞することができました。
活動を続ける中で、認知症についてさらに興味を抱き、デイサービスで介護のアルバイトを始めました。実際に介護の現場で働いてみると、介護の仕事の尊さや面白さを感じる一方で、利用者さんとのコミュニケーションの問題もさることながら、もっと大きなテーマがあることに気づいてしまったのです。
―どのような問題だったのですか。
「人生のおわりは必ずしも幸せではない」という現状です。「生きていることが申し訳ない」と死を願うお年寄りや、介護と仕事との両立に悩み、遂には介護離職をして収入が断たれてしまい、負のスパイラルに苦しむ家族の姿。そうした方たちと出会い、「人生のおわりは必ずしも幸せではない」こと、人生のおわりを支える人が苦しんでいる現状を目の当たりにしたとき、このままではいけないと思いました。
そんな想いを感じ始めた頃、3.11の東日本大震災が起きました。多くの方の命が奪われた悲しい体験は、残された多くの人に「誰かのために何かをしたい」という想いに火を点け、復興支援や社会貢献活動が全国で盛んになりました。
その一方で、高齢化が深刻化している介護領域の課題には、さほど関心が持たれていないことに危機感を覚えました。「もっと同世代で介護に関心を持ち、課題解決に向けてアクションを起こす人を増やしたい」と思ったのが、今の会社を始めたきっかけです。
「まなぶ場」と「つくる場」を提供
―就職活動をされずに起業をされたのですね。
22歳で起業しました。父も会社を経営していましたし、もともと小さい時から人の前に立つことが好きな性分でしたから、こういう選択が向いていたのかもしれません。
―起業された株式会社Join for Kaigoについて教えてください。
2013年4月、大学卒業後に設立をし、「介護に関わる全ての人が、自己実現できる社会をつくる」をビジョンに掲げ、若者が介護に関心を持つきっかけや、若者が活躍できる環境づくりをサポートしています。
事業内容としては、介護人材の採用支援や研修、商品企画やニーズ調査、コンサルティング、講演活動などを行っております。
中でも一番大きなウェイトをおいているのが、超高齢社会を創造的に生きる次世代リーダーのコミュニティ「HEISEI KAIGOLEADERS」の運営です。「HEISEI KAIGOLEADERS」は、学生時代からやっていた「飲み会」から形を変えながら続け、先日5周年を迎えました。
このコミュニティでは、これまでの組織や職種の垣根を超え、介護や高齢社会が直面する課題に関心がある人がともに学び、アクションを起こすための「まなぶ場」と「つくる場」を提供します。
―「HEISEI KAIGO LEADERS」では、具体的にどのような活動がなされているのですか。
まず「まなぶ場」には、業界内外のトップランナーを講師に迎え講演方式で行う学びの場「PRESENT」があります。ここには、毎回100名近くの方が集まり、「地域包括ケアシステム」、「介護×IT」、「教育問題」などのテーマについて熱量の高い対話が繰り広げられます。今では介護領域の若手プレイヤーが集う最大規模の学びの場として成長してきました。これまでの参加者は約2000名。まだまだ小さなうねりではありますが、介護の世界に新しい風を吹き込み、活き活きと活動をする若手リーダーが育ち、ポジティブなアクションがスタートし始めています。
そしてもう1つの「つくる場」は自分自身の想いやビジョンを、仲間と一緒につくる「KAIGO MY PROJECT(マイプロ)」というプログラムです。これは想いをカタチにするプログラムで、3ヵ月間同時期にマイプロに取り組む仲間たちとの対話を通じて実践へとつなげていきます。プロジェクトの大小に関係なく、実行に移すことを目標にしています。弁護士や医師・理学療法士などの専門職、介護に関心のある学生や別業種の若者たちが集い、さまざまなアクションが生まれています。
現在までに14期、121名の方がプログラムを修了しました。今までのプロジェクトには、「人を、地域をよりよい姿に! 地域に飛び出した理学療法士が描く、新しいリハビリテーションの形。」、「12カ月連続離職ゼロ! 誰もが楽しく仕事ができる介護施設を目指して」などがあります。いずれも未来をよりよくするためのプロジェクトがうまれています。
全国に広がる若手リーダーのネットワーク
―団塊の世代が75歳を迎える、いわゆる「2025年問題」を控えて、どのような展望をお持ちですか。
「2025年問題」は、社会全体の問題であると同時に、私たち一人ひとりの、私たちの大切な人に関わる問題です。高齢化が進む中で、「悲しい」「辛い」思いをする人たちがいなくなるように、自分らしく生きていくことのできる人が増えていくように、社会を変えていくアクションを加速させていく必要性を感じています。
そこで来るべき未来をよりよい社会にしていくために、「10,000人の"KAIGOLEADER"のプラットフォーム」を目標としています。まずは、超高齢社会をポジティブに創造する次世代リーダーのコミュニティを全国8箇所に設置します。ありがたいことに私たちが行ってきました「HEISEI KAIGOLEADERS」のような活動を、自分たちの地域でも実行したいと言ってくれる人が出てきました。今まで知り合ってきた若手介護職員の皆さんは、多かれ少なかれ「こうしたい」とか「この課題を解決したい」という思いを抱いています。ですが忙しい現場の中ではその想いを共有する仲間がいなかったり、目先の業務に追われているうちに、いつしかその想いを諦めてしまうという現状があります。そうした想いに応えるべく、全国展開ではこれまでの活動で培ったノウハウを活かしながら、それぞれの地域のプレイヤーとともに、「まなぶ場」と「つくる場」をベースにコミュニティを構築し、介護を、地域を、日本社会を盛り上げていきます。
第一弾は、今年の8月に関西(大阪)、そして10月には北陸(金沢)を立ち上げます。その後2020年までに、北海道(札幌)・東北(仙台)・中部(名古屋)・中国(広島)・九州(福岡)で「HEISEIKAIGO LEADERS」の運営チーム(コミュニティ)を発足させ、若手リーダーのネットワークを広げていく予定です。
全国各地で志を持つ人たちが立ち上がり、それぞれの地域ごとの状況に合わせながら、アクションをしていき、介護や高齢社会を前向きに考え、ワクワクできる情報を全国に発信していきます。
2025年、介護のリーダーは日本のリーダーになります。皆さんもこの輪に加わりませんか。