カセットカルチャー&ビジネスのスペシャリストに聞きました

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つのだ たろう▶1969年東京都出身。都立広尾高等学校から桜美林大学文学部英文学科へ進学。1992年㈱WAVE入社、バイヤーとして渋谷店、六本木店勤務。退職後は㈱明響社を経て2000年㈱アマゾン・ジャパン入社。CD.DVD通販の立ち上げを担当。2015年3月同社を退職し8月東京・中目黒に日本唯一のカセットテープ専門店「waltz」オープン。2017年伊デザイナー・グッチにインスピレーションを与えた「グッチ プレイス」世界7カ所のひとつに同店が選ばれる。今や日本を代表する著名アーティスト・ミュージシャンたちも足繁く通う“カセットカルチャーの発信地”として音楽ファンの注目を集めている。

世界の誰もやっていない
自分にしかできないことを仕事にする

音楽・映画とバスケに明け暮れた高校時代
大学で頑張った英語が生涯のスキルに

 東京・目黒で生まれ育ち、ニューウェーブなど尖った音楽が好きな10代でした。当時はレンタル店も少なかったので、映画は名画座の3本立て、音楽はFMラジオのエアチェックと近所のオーディオメーカーのショールームに通ってアーカイブを聴いていました。高校ではバスケットボール部以外、あまり勉強熱心ではなかったのですが「大学へ行って一緒に遊ぼうよ」という友人の励ましで入試前1か月半の猛勉強の末、桜美林大学文学部英文学科へ進学しました。大学4年間は英語の学びをがんばったことが、後の人生で大いに役立っています。
 卒業後は好きな音楽がたくさん聴ける環境にいたいと、当時の人気企業・セゾングループのCDストア、WAVEに入社しました。

日本有数の繁盛店・渋谷WAVEで実務力と感性を磨く

 WAVEは全国に店舗がありましたが、地元の渋谷店に配属となりました。はじめはアルバイトさんに店舗オペレーションを教わりながら、特に混雑する日曜日はいかに早くレジを打つかを工夫していたと記憶しています。同期には「アルバイトに仕事を教わる」のが耐えられず早々に辞める人もいましたが、入社半年後に「角田をアシスタントに使いたい」と先輩から声がかかり、洋楽担当のバイヤーとしての業務がスタートしました。アメリカ・イギリスの最新音楽シーンを雑誌やラジオで情報収集し、独自のアンテナで輸入盤CDを仕入れて「流行を仕掛ける」のがバイヤーの仕事です。1990年代初頭はまだインターネットなどありません。そこで海外の音楽情報誌を自分で取り寄せて翻訳し、日本の音楽雑誌よりも早くリサーチできるようになったことで、レコード会社から洋楽アルバムの国内盤ライナーノーツの執筆を依頼されるまでになりました。

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転職先で「経営」を学び
いち早く「IT 実務」を身につける

 WAVEには4年間勤務し、明響社というTV ゲーム販売のFC(フランチャイズ)展開の会社に転職しました。ここでは「業務のIT化」をいち早く取り入れていたので、一人1台のパソコンが与えられました。また、FC店に経営指導をしなければならないので、業務を通じてバランスシートの読み方など、WAVEでは経験できなかった「経営」を学ぶことができました。さらに、後に「waltz」店舗の内装工事を協力してもらう人脈などもここで培いました。

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アマゾンのCD・DVD通販を立ち上げビジネスに没頭した14年

 2000年11月にアマゾン・ジャパンの書籍販売が始まり、半年後スタートのCD・DVD販売部門を立ち上げるメンバーとして同社に転職しました。アマゾン・ジャパンは外資系で、上司の多くがアメリカ人という環境です。事業計画などの文章作成にも、ロジカルシンキングが徹底していないと立ち行かない、厳しい会社でした。社員の在籍年数が短く、後半は私がかつて音楽業界にいてCD・DVD販売事業を立ち上げたことも知らないような人たちと一緒に仕事をしていました。数年ごとに部署が変わるので「事業立て直し」が多かった14年間でしたが、音楽とは関係ない商材を担当し、世界有数のメーカーと直接交渉を重ねることで、ビジネスをまわすメカニズムがわかってきたと実感しています。
 しかし40代半ばになり、これから自分は何がしたいのか。会社員でなく「世界で誰もやっていない自分にしかできないこと」をやりたいという思いとビジネスイメージが湧き、2015年3月、「やりたいことがあるから」と会社の誰にも内容を話さず退職しました。それが今の「waltz」です。退職後5ヵ月で店舗をオープンさせました。

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音楽業界の栄枯盛衰を見続けて確信と戦略で始めたカセットテープ専門店

 カセットテープは一度「終わった」メディアでしたが海外では製造が続き、2000年代前半から個人的に輸入盤カセットテープを再び集めていました。また2010年ごろからのアメリカ西海岸でカセットカルチャーの盛り上がりがあり、世界にはカセットテープを愛好する人々がいることを知っていたので、通販ではなく商品を自分で選び抜いた日本唯一のカセットテープ専門店は話題になるだろうという確信がありました。一般的なCDショップやレコード店よりも難易度の高い挑戦でしたが、これまでの実務で経験したことや経営の知見、また厳しい環境で体得したビジネスを基に戦略的に練り上げてスピーディーに進めました。オープン告知は店頭ポスターのみ。それでも来店した人々がSNSにアップして少しずつ広まりました。
 「waltz」をオープンして4年が経ちましたが、この間約300件の取材を受け、“カセットカルチャーの発信地”として音楽ファンに認知されています。想定外だったのはデザイナー・グッチの「グッチ プレイス」に選ばれてコラボ製品のオファーをいただき、結果としてカセットテープの価値を世界的に高めてくれたのは有り難いことでした。
 海外アーティストはフルメディア(CD、LP、カセット、配信など)でアルバムをリリースしますが、日本のメジャーレーベルは長い間カセットテープのリリースがありません。音楽業界の栄枯盛衰を売る側から見続けて、この事業がどういうポジションでいるべきかを常に考えて経営をしています。
 変わったことをやっていると、いろいろな事が起こります。たとえば日本を代表する著名アーティストが次々来店し、作品説明のアテンドをするなど思わぬ出会いもありました。不特定多数の来客を迎える“店舗”という形態は、通販にはない魅力があり、音楽に向いていると思います。

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音楽業界をめざす高校生へのメッセージ

好きなものは好きなままでいる
出会いのひらめきはこれまでの積み重ねから可能に

高校生の頃は何になりたいかを決めていませんでした。今から将来像を限定することはないと思います。好きなことを好きなまま継続すれば良いのです。好きなことに出会えたのは偶然ではなく、子どもの頃からの積み重ね。人生に無駄な事は何一つないはずです。

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