たなか あつお▶1957年東京生まれ。日本大学法学部卒業後、㈱紙パルプ会館入社。2011年専務取締役。2006年東京銀座の自社ビル屋上で養蜂を行う「銀座ミツバチプロジェクト」を立ち上げ、2010年農業生産法人㈱銀座ミツバチ設立。メイドイン銀座のハチミツは高品質で一流シェフ、パティシエ、バーテンダー等の手で「銀ぱち」ブランドの料理・和洋菓子・カクテルとして発信し銀座松屋のギフトカタログでも特集。近年は屋上緑化の地域野菜栽培や地方空港活性の養蜂(ビーガーデン)で全国各地とつながる活動も展開中。
東京の中心・銀座が消費から生産の街へ
テナント貸しのつもりが巣箱の世話を
私は元々、貸会議室などビルのテナント運営を手がけていました。食の勉強会で知り合った養蜂家から「銀座のビル屋上にミツバチを飼うための巣箱を置きたい」という話があり、初めはテナント貸しでハチミツが少しもらえるかな、くらいに考えて進めていたのですが、街中での養蜂なので勉強するようにという奨めから、結局は自分の手で巣箱の世話をすることになりました。地元企業や有志の方々、自治体の協力を得て2006年3月にプロジェクトをスタートしました。江戸時代から栄えた銀座は消費の街。400年経て初めて、ハチミツと言う農産物を生産する産地となったのです。
大都会のハチミツは高品質だった
周りはビルが立ち並び、企業やホテル、レストラン、百貨店を訪れる多くの人が往来します。屋上とはいえ街中でセイヨウミツバチを飼うのは危なくないのか、花はどこに咲いているのか、なぜ銀座で養蜂を行うのかなど、周囲の不安を払拭するために説明責任を果たすべく、取材対応など情報発信を積極的に行いました。こうして1年目は150㎏収穫することができ、検査機関で成分を調べてもらったところ、とても質の高いことがわかりました。蜜源植物が近隣の皇居や浜離宮庭園、日比谷公園など無農薬であることも幸いしたようです。現在は銀座、京橋、丸の内のビル屋上で年間2,100㎏以上を収穫していますが、これは国内生産量の約0.07%にあたります。
銀座のチカラで魅力ある商品に
銀座で収穫したハチミツを、街の一流シェフ、パティシエ、バーテンダーが魅力ある商品に作り上げてくれました。一部の商品は銀座の百貨店でも販売し、ギフトカタログにも特集されています。世界中で注目される銀座のホテル・レストランはメディアで取り上げられることも多く、消費者にもメッセージが伝わります。このプロジェクトを続けるためにも「どうしたら商品が売れるのか?」ということを念頭に置きながら、高い付加価値を持った銀座ならではの商品を送り出していきたいと考えています。
商品の背景にあるストーリーを楽しんで消費する時代
ミツバチは環境指標生物です。銀座で養蜂を続けるには、屋上緑化をこれまで以上に行わなければなりません。都市のヒートアイランド対策にも有効ですので、積極的に行っています。屋上に何を植えるのか、その中で始まったのが、地域の特産野菜の苗を植えて収穫イベントを行うという新たな取り組みです。これまで新潟の茶豆、福島の菜の花、酒米、長野のリンゴ、大分のかぼす、熊本のトマトなどさまざまな地域と銀座との交流から新しい価値を生み出し、地域活性など課題解決に役立ててもらいました。また屋上にサツマイモを植えて収穫し、福岡県の酒造会社で芋焼酎を生産しています。協力の輪が徐々に広がり、現在は都内42カ所のビル屋上が芋焼酎「銀座芋人」の原料産地となっています。
一流シェフの共通点は生産地への愛
これらのプロジェクトでは、銀座の名立たるシェフやパティシエと一緒に全国へ行く機会があります。彼らに共通しているのは、食材の生産地である地域を大切にしている点です。
オーナーシェフは経営者としての立場もありますが、目先の売上だけに捉われず、視点を一歩二歩先に見据えて社会と向き合っているように思います。シェフたちが地域を応援することによって生産者が元気になり、良い食材として還っていくことを理解しているのです。
食の力は無限大です。食を通じて地域の足元が元気になり、日本全体が元気になることを願い、日々活動しています。